随想の細道

日常の感動を感ずるままに綴っています。よろしければ、ご覧ください。

人生の道しるべ

歌ごころ 先生のお話し
どこかに歌の材料はないかと探すような気持になったり、ここを歌に詠もうとか、こういうように詠もうとかいうような野心を捨てて、ある時間を歌心でいるようにだけ、努めます。情緒を持った気持ちでいるのです。そうしますと、その間に、その情緒の鏡にある鮮明な印象が映じます。それを掴むのです。歌会の即詠のような場合も、吟行のような時でも、その時を、始めから歌にしようとする心構えを捨てて、歌心、その場の空気や感じに心を注ぎ味わい楽しむ気持ちでしばらくいることです。そうしますと、その時に、必ず、鮮明な情緒の動きを心に記録することができます。それを歌にするのです。決して、ひとことに眼がとまったらそのひとことにペンを染め、ひとことに心が動けばそのひとことを三十一文字にしようというような、物欲しいがつがつした気持にならないことです。静かに、その場その時の気分を味わってください。そして、その間の鮮明な情緒の動きを心に焼きつけておくのです。さて、それから実際に三十一文字の歌に作ります場合には、そのあいだの最も鮮やかな印象の感動から一番に形式律を持たせてゆくようにするのが最もかしこいやり方です。そうしますと、その一つの感動によって一首を作っていますあいだに、更にもう一つの印象が鮮やかに浮かびあがって参ります。それは、さっき、じっとその場の気分を味わっていた時に感じ取ったものとは違うかも分かりません。あるいは、その中の一つであるかも分かりません。しかし、それが何れであるかは問うところではありません。第二番目に作るべきは、その感動を素材としたものです。そういうようにして順次、はっきりした気持ちの上の印象がなくなるまで作歌してまいります。こういうふうにしてゆきますと、案外、その物事に触れていた時に、ここは歌になるなと思ったところでないようなことが、印象鮮やかに浮かびあがってくるものであります。こうして連作というようなこともできるのであります。

お話は、まだ続きますので、ひとまず、ここまでとさせて頂いておきます。