沁み入る味わい その二(湯浅竜起先生)
山道にかかればここは墓所にて疎林に雨のくだるしづけさ
市山盛雄
道が浅い山道にかかります。まばらに樹木がはえていますが、見ると諸所に墓石が立っているのです。真間の井の近くには、私の記憶では、さして大きくもない櫟(くぬぎ)の木が多かったように思います。枯葉をつけた櫟の風情は、ただでさえものさびしい感じを受けるものですが、そこが墓碑の点在する墓どころで、おまけに雨が白く雨脚をみせながら降っているのです。もちろん、雨は土砂降りの雨とは違います。しかし、冬のつめたさをいっそう心にしみこますような降りかたをしているのです。筋を引いて落ちてくる雨が、おそらく落ちたまっていたであろう木々の枯葉の上に、あるかなしかの音をしのばせるように注いでいただろうと想像されます。その感じを「くだる」という言葉で表現しました。そのしずけさはもはや単なるしずけさではありません。手児奈の故事の悲しさを思い合わせるまでもなく、しみじみと作者の心にとけこむようなしずけさなのです。ただ森閑としているというだけのものではないのです。その特殊なしずけさの感じが、この一首のおだやかな表現のうちに、読者の心にもしみ入るようにひびいてくるところを味わいたいと思います。
湯浅竜起著 「短歌鑑賞十二か月」より