原 阿佐緒 その五(湯浅先生)
馬を見に行かなとせがむ児を抱き朝春寒むに霜をふみてし
原 阿佐緒
この歌は、阿佐緒の第二歌集「白木槿」(しろむくげ)にあるもので、朝はまだそぞろに肌寒さをおぼえる早春のころのある日、突然にお馬が見たいといい出した子にせがまれて、抱いて表に連れてゆき、馬のいるところまでまっ白に降りている霜の道を踏んだというのでしょう。ことがらはそれだけの簡単なものなのですが、そうであればあるほど、その何でもないいわば家庭の些事のうちに、独り身の作者が子どもに寄せる愛情のほどが、せつせつとしのばれる歌となっているところを味わいたいと思います。わが子を抱いて霜を踏むという、劇のひとこまにでも出てきそうな情景が思い描かれるところにも、この歌の感傷的な気分を深めるもののあることを思わされます。