随想の細道

日常の感動を感ずるままに綴っています。よろしければ、ご覧ください。

人生の道しるべ

原 阿佐緒 その六(湯浅先生)
病む母にしばしばはよらず夕さりし門辺に吾子が吹くラッパはも

                       原 阿佐緒

 

前にかかげた歌の場合と同じように、母は子を思い、子はその幼な心のうちにも母をいたわっている感じが切実に味わえると思います。甘えて母に寄りつきたい気持ちをおさえている子が、いたつきの母を離れ門辺に出てラッパをならしているのです。その吾が子の心根を痛いほど感じている母親の心情が、「しばしばはよらず」といい、「吹くラッパはも」とうたった中から、うらがなしく読者の胸にもひびいてきます。

母子の生活の、誰にでも経験されそうな、いわばありふれた事象が、女性特有の繊細な感受性によってとらえられ、母親の哀切の情を遺憾なく表現することとなった歌の好例だと思います。