随想の細道

日常の感動を感ずるままに綴っています。よろしければ、ご覧ください。

人生の道しるべ

橋田東声 (湯浅先生)
谷かげの参道いまは黄昏れて御陵守(みささぎもり)は山をくだれり

                           橋田東声

 

東声は四十五歳で世を閉じているのです。たいそう若くてなくなったわけですが、肉親の縁にも薄い生涯で、彼としては傷心の生活が続いていたのです。

歌のだいたいの意味は、森閑としずまりかえっている御陵の奥深い参道は、木々の繫みも幽玄な山のすそべの谷かげに、早すっかりとたそがれてしまった。そこを御陵の守衛をつとめる役人がひとり、麓へおりてゆく、というのです。これだけの意味なのですが、それがどうして淋しさをただよわせるのでしょうか。

あたりに人気がないとも、ほかの物音も何一つしないとも言い表してはありませんけれども、心を澄まして読んでいるうちに、作者の心に触れてきていたものが、きっとそうであったに違いないと思われてまいります。「黄昏れてーーー山をくだれり」というあいだの歌のしらべが、何ということなしに読む者にそのような、しみ入るような静寂なさびしさを感じさせるのです。きっと、作者もそのようなひっそりとしたものを心のなかふかく感じたたえながら、この歌を詠んだに相違ありません。そしてそのような感じを受けたことがらを、そのままたださりげない普通の言葉で、よみおろしたのです。

歌の微妙な味は、それと表にはいい出さなくても、心のうちにある深いしらべを湛えながら、ありのままに詠みいずるときに、言外の深いしらべも、そのあいだに彷彿として描きだされるところにあると思います。