随想の細道

日常の感動を感ずるままに綴っています。よろしければ、ご覧ください。

人生の道しるべ

上野夕穂 湯浅先生の鑑賞 その一
じっとして、しばらくの間、時間に心をひたらせていた作者の心のなか味が、そこにころがされた玉のようにはっきりと受け取られる歌だと思います。あまり高くもなく飛んでいた鳥ーーーはじめはある程度の高さで飛んでいたかもしれませんが、だんだんと沖合はるかにその鳥が飛び進んでゆくにつれて、作者の視野には、鳥と海面とがいっしょにはいってくる角度となってきます。鳥ははるばると水平線の方に向かって飛んでゆきます。いつまでもいつまでも一直線に飛んでゆきます。沖合はるか海とすれすれにみえるほどになるまで飛んでゆくのです。カモメでしょうか。ただ一羽だけのはなれ鳥です。はじめには、その双の羽翼の美しく脈打つさまも、夕かげの沖の空にはっきりと見えていましたが、しまいにはそういうつばさの動きも目にとまらぬようになり、ただかぐろい鳥のすがたのみが、しだいに小さくなりながら、沖へまっすぐ遠ざかってゆきます。そして、とうとう見失われがちな点となり、しまいには空の色にとけこむように、ついに視野から消えていってしまいました。「飛ぶ鳥の消えたる」というのは、こういう感じをいいあらわした言葉なのです。