描写・写生 その一
青山峡下りくる川のここにして見やれば長く傾きて来る
この広き山川の水ことごとく白波となりてかがやき流る
青き瀬はここに真白き波となり這ひあがり行くその青き瀬を
青き水脈くだけて白しその砕け流れはゆかず盛りあがりさわぐ
窪田空穂
峡谷を下りくる川の一所で見れば長く傾斜している。
広い川の水が全て白波となって輝いている。
青い瀬は白波となり、上流へ向かって巻き込んでいる。
その白波は逆巻くばかりで、まるで、流れていないかのようだ。
僕には、これぐらいしか味わえません。
こちらが先生の味わわれたものです。
宇治川の水量の多い流れが傾斜して瀬をなし、その真っ青な水が砕けてかがやくように白く波立ち、いきおいよく流れ落ちてゆきます。しかし、その落ちたところから、湧き立ちさわだって、そのまま今落ちてきた瀬の傾きの上に巻き返し、はげしい水泡の渦巻きとなってはいあがって行くのです。それは、じっと見つめていると、いつまでもいつまでも、同じ姿をくりかえし、やむことなくつづいています。生きもののように、そこで声をあげ、あるいは挑むように、あるいは母なる流れを慕いまつわるように、躍動するいのちを思わす脈拍の連弾とも見えてくるのです。作者は心を吸いこまれるように、立ち尽くしてその様子を見とれています。そのうちに、あるときは再び返ることもないはずの激しい水の流れが、そこにじっと白と青との交錯する美しいポーズを作っているような錯覚を感じるようなこともあるかもしれません。
先生の味わいは、まだまだ続きますが、今回はこれまでとさせて頂いておきます。