随想の細道

日常の感動を感ずるままに綴っています。よろしければ、ご覧ください。

人生の道しるべ

短歌の味わい
竹むらより老梅林に吹きこゆる風はさむけれ花の遅るる

 

梅の園いまだ咲かねば枝がちて木の間はさむし枯芝のいろ

 

枝がちて蕾ながらの梅の園しら鶴を清く居らしめにけり

 

春さむき梅の疎林をゆく鶴のたかくあゆみて枝をくぐらず

 

老梅林ほつ枝はさむし然れども日向に這ひし枝は開きぬ

 

梅林の外にでて鶴は羽ばたけり芝生に作る影のおほきさ

 

芝庭ははるかに廣し飼鶴の舞ひ立ちあそび下りるによろし

                      中村憲吉

 

園の外郭をつくっている高い竹薮があります。そこから内部の梅林に吹き越えてくる風はまだ寒いのです。次の歌の、枝がちて、という表現は、まだ花が咲かない梅の枝の伸びている感じを巧みに言い表していると思います。そこに、清らかな感じの鶴がいて、次の歌のような美しい姿を見せるのです。鶴の長い脚、すらりとした美しい首、そのままの姿勢をくずさずに、人間が物の下をくぐるときにするように首を曲げたりはしないのです。あの美しい均整さを保ったまま、まことに高雅に歩いてゆくのです。この歌の表現でいちばん感じたところは、「たかくあゆみて」という言葉と「枝をくぐらず」というところです。その鶴が梅林の外に出て、人間ならば背伸びでもするような感じで大きく羽ばたくのですが、その羽ばたきの影が、きれいに刈り込んである広芝生の上に映るとき、その影が意外に大きいのに驚くのです。素直にそのままをいってあって、鶴の動きが目に見えて躍動するように感じられるところはさすがだと思います、と先生は味わわれておられたようです。